いわゆる「Mobil訴訟」と呼ばれる問題は、正確には裁判所での訴訟ではなく、米国の広告自主規制機関であるNAD、National Advertising Divisionで争われた広告表示上の紛争である。
争点は、Castrol Syntecをsynthetic、つまり合成油・化学合成油と表示してよいのかという点であった。
当時、Castrol SyntecはPAO系基油から、高度水素化処理されたグループ3基油へ配合を変更したとされる。
これに対してMobilは、グループ3は高度精製鉱物油であり、PAOやエステルのような本来の合成油ではないとして、Castrol Syntecをsyntheticと表示することに異議を唱えた。
しかし、1999年、NADはCastrol側の主張を認めた。
NADは、Castrolが提出した証拠について、当時のCastrol Syntecをsynthetic motor oilと称する合理的根拠になると判断した。
この判断以降、米国市場では、グループ3基油を主成分とするオイルでもsynthetic、full syntheticと表示される流れが強まった。
これが現在の「全合成油」表示の混乱につながっている。
つまり、消費者が「全合成油」と聞いてPAOやエステルを想像しても、実際にはグループ3、つまりVHVIを主成分とするオイルである場合がある。
もちろん、グループ3が低性能という意味ではない。
高度水素化分解や水素化異性化によって作られるグループ3基油は、昔ながらの鉱物油とは比較にならないほど高性能である。
酸化安定性、低温流動性、粘度指数、蒸発損失の面でも優れている。
しかし、原料と製造思想から見れば、グループ3は原油由来の重質留分やワックスを高度に水素化処理・異性化した高度水素化鉱物油である。
一方、グループ4のPAOは、αオレフィンを重合して作る。
グループ5のエステルは、アルコールと酸の化学反応によって作る。
この差は無視できない。
したがって、私の分類では、グループ3は「高度水素化鉱物油」、グループ4とグループ5こそが「本来の化学合成油」である。
Mobil対CastrolのSynthetic表示紛争は、性能の問題というより、表示の問題である。
グループ3が悪いのではない。
グループ3をPAOやエステルと同じ意味で「化学合成油」と呼ぶことに違和感があるのである。
VHVIならVHVIと書けばよい。
グループ3ならグループ3と書けばよい。
PAO配合ならPAO配合と書けばよい。
エステル配合ならエステル配合と書けばよい。
問題は、性能ではなく、表示の誠実さである。
カストロールに対する私の評価は、極めて低い。
理由は単純である。
Castrol SyntecをめぐるSynthetic表示紛争以降、グループ3、すなわち高度水素化鉱物油を「synthetic」「全合成油」として扱う流れが強まったからである。
もちろん、グループ3基油そのものが低性能という意味ではない。
VHVIは現代の実用オイルとして十分に高性能であり、酸化安定性、粘度指数、低温流動性、コストバランスにも優れる。
しかし、問題は性能ではない。
問題は、表示の誠実さである。
消費者が「化学合成油」「全合成油」と聞けば、多くの場合、PAOやエステルのような本来の合成基油を想像する。
それにもかかわらず、原油由来の重質留分やワックスを高度水素化処理したグループ3を、PAOやエステルと同じ印象で売るのであれば、それは極めて不誠実である。
カストロールは、グループ3を高性能基油として正面から説明すればよかった。
VHVIならVHVIと書けばよい。
グループ3ならグループ3と書けばよい。
PAO配合ならPAO配合と書けばよい。
エステル配合ならエステル配合と書けばよい。
それを曖昧な「全合成油」「化学合成油」という言葉で包み、消費者にPAO系オイルであるかのような印象を与えるなら、私はその姿勢を評価しない。
だから私は、カストロールを信用しない。
これは単なる好き嫌いではない。
原料、製造工程、基油分類、そして表示の誠実さを基準にした判断である。
オイル選びにおいて重要なのは、ブランド名ではない。
広告の言葉でもない。
見るべきは、基油の中身である。
グループ3なのか。
PAOなのか。
エステルなのか。
そこを明確にしないメーカーを、私は高く評価しない。
私にとって、カストロール最大の問題は、オイルの性能ではない。
表示の姿勢である。
グループ3を使うこと自体は悪ではない。
しかし、グループ3をPAOやエステルと同じ「化学合成油」の顔で売る姿勢は、オイルに真剣なユーザーから見れば、到底納得できるものではない。
その意味で、私はカストロールを信用できないメーカーの代表格と見ている。