各規格について

API規格、ILSAC GF規格、ACEA規格、JASO規格は、完成油としての性能規格である。

基油グループとは別物である。

API SPだからPAOではない。

API SQだからエステルではない。

GF-7だからグループ4以上ではない。

グループ3高度水素化鉱物油でも、完成油として性能試験を満たせばAPI SQやILSAC GF-7に適合できる。

逆に、PAOやエステルを使っていても、規格を満たしていなければ規格適合油ではない。

したがって、オイル選びでは二つの軸で見る必要がある。

第一に、規格。

メーカー指定粘度、API、ILSAC、ACEA、JASOを満たしているか。

第二に、基油。

グループ3なのか。

グループ3+なのか。

グループ4以上なのか。

規格は最低条件である。

基油は設計思想である。

この二つを分けて見ることが、本当の意味でのオイル選びである。

API規格

API規格とは、American Petroleum Institute、米国石油協会によるエンジンオイルの品質規格である。

ガソリンエンジン用では、SA、SB、SC、SD、SE、SF、SG、SH、SJ、SL、SM、SN、SP、SQというように進化してきた。

基本的には、アルファベットが進むほど新しい規格である。

現在の代表的なガソリンエンジンオイル規格は、API SPおよびAPI SQである。

APIは、現行および過去のサービスカテゴリーを一覧化しており、ガソリンエンジン用では新しいAPI規格は古い規格の性能要求を包含する形で運用される。たとえばAPI SN指定の車両には、API SPが使用可能と説明されている。

API SP

API SPは、2020年以降の現代ガソリンエンジン向け規格として広く普及している。

API SPで重要なのは、LSPI対策である。

LSPIとは、Low Speed Pre-Ignition、低速早期着火のことである。

特に、直噴ターボエンジンやダウンサイジングターボで問題になりやすい。

低回転・高負荷時に異常燃焼が起き、強いノッキングのようなダメージにつながる可能性がある。

API SPでは、このLSPI対策、タイミングチェーン摩耗抑制、ピストン清浄性、酸化安定性、ターボチャージャー保護、省燃費性能などが重視された。

つまり、API SPは現代の直噴・ターボ・低粘度化に対応するための規格である。

API SQ

API SQは、API SPの次に導入された新しいガソリンエンジン用規格である。

API SQは、2025年3月31日からILSAC GF-7とともに導入された。

API SQでは、API SPよりさらに現代エンジン向けの保護性能が強化されている。

主なポイントは次の通りである。

新油および劣化油でのLSPI対策。

タイミングチェーン摩耗防止。

ピストンの高温デポジット防止。

ターボチャージャーの高温デポジット防止。

スラッジ・ワニス抑制。

燃費性能。

排出ガス制御システム保護。

低温ポンパビリティ。

つまり、API SQは、単に新しいラベルというだけではなく、使用中に劣化したオイルでも現代エンジンを守れるかをより重視した規格である。

ILSAC GF規格とは何か

ILSAC GF規格とは、International Lubricant Specification Advisory Committeeによる、主に乗用車用ガソリンエンジンオイルの規格である。

API規格と関係が深いが、ILSAC GF規格は特に省燃費性能、排出ガス制御システム保護、低温始動性、現代乗用車への適合を強く意識している。

代表的な規格は次の通りである。

GF-5

GF-6A

GF-6B

GF-7A

GF-7B

APIがガソリンエンジンオイル全体のサービスカテゴリーであるのに対し、ILSAC GFは乗用車向け、省燃費向け、低粘度エンジンオイル向けの性格が強い。

GF-6AとGF-6B

ILSAC GF-6は、GF-6AとGF-6Bに分かれる。

GF-6Aは、従来のILSAC規格との後方互換を意識した規格である。

対象粘度は、0W-20、5W-20、0W-30、5W-30、10W-30などである。

一方、GF-6Bは、0W-16専用の規格である。

ここが重要である。

0W-16は、従来の0W-20や5W-30と同じ扱いにしにくい超低粘度側のオイルである。

そのため、GF-6Bとして別枠にされた。

簡単に言えば、

GF-6A:
0W-20、5W-20、0W-30、5W-30、10W-30など。

GF-6B:
0W-16専用。

という整理になる。

GF-7AとGF-7B

ILSAC GF-7は、GF-6の次世代規格である。

GF-7も、GF-7AとGF-7Bに分かれる。

GF-7Aは、0W-20、5W-20、0W-30、5W-30、10W-30などに対応する。

GF-7Bは、0W-16専用である。

つまり、GF-6A/GF-6Bと同じく、0W-16は別枠で扱われる。

GF-7では、現代の直噴・ターボ・ハイブリッド・低粘度化に対応するため、LSPI対策、タイミングチェーン摩耗対策、燃費性能、酸化安定性、スラッジ・ワニス抑制などが強化されている。

特に重要なのは、劣化油でのLSPI対策である。

新油状態で良いだけではなく、使用によって酸化や燃料希釈が進んだ状態でも、異常燃焼を抑えられるかが問われる。

API SQとGF-7の関係

API SQとILSAC GF-7は、同時期に導入された次世代規格である。

API SQは、ガソリンエンジンオイルのAPIサービスカテゴリーである。

ILSAC GF-7は、乗用車向け、省燃費性を重視した規格である。

API SQのうち、Resource Conserving表示を持つ低粘度オイルは、ILSAC GF-7と要求内容が整合する。

一方で、API SQは、GF-7より広い粘度範囲をカバーする。

たとえば、GF-7AやGF-7Bは主に低粘度乗用車用であるが、API SQは5W-40、10W-40、15W-40、20W-50などの高粘度側も対象に入る。

つまり、

ILSAC GF-7:
省燃費乗用車向け低粘度規格。

API SQ:
より広いガソリンエンジンオイル規格。

という見方ができる。

ACEA規格

ACEA規格は、欧州自動車工業会によるエンジンオイル規格である。

APIやILSACが主に米国・日本の乗用車事情と関係が深いのに対し、ACEAは欧州車向けの要求が強い。

ACEAでは、ガソリン・ディーゼル兼用、DPFやGPF対応、低灰分、HTHS粘度、ロングドレイン性能などが重要になる。

代表的には、次のような分類がある。

A/B系:
従来型のガソリン・ディーゼル乗用車向け。

C系:
触媒、DPF、GPFなど排ガス後処理装置に配慮した低SAPS系。

E系:
大型ディーゼルエンジン向け。

日本車の通常使用ではAPIやILSACを見る場面が多いが、欧州車、ディーゼル車、DPF装着車、ACEA指定車ではACEA規格が非常に重要になる。

JASO規格

JASO規格は、日本自動車技術会規格である。

エンジンオイルでは、特に二輪用とディーゼル用で重要である。

二輪用では、JASO MA、MA1、MA2、MBがよく使われる。

二輪車では、エンジンオイルが湿式クラッチやミッション潤滑を兼ねることがある。

そのため、四輪用の省燃費オイルをそのまま使うと、クラッチ滑りなどの問題が出る場合がある。

そこで、JASO MAやMA2などの二輪用規格が重要になる。

ディーゼルでは、JASO DL-1、DH-2などがある。

DPF装着ディーゼルでは、灰分やリン、硫黄分の管理が重要になる。

つまり、JASOは日本の車両事情、とくに二輪やディーゼルで重要な規格である。

規格と基油グループは別軸

ここが最も重要である。

API規格、ILSAC GF規格、ACEA規格、JASO規格は、完成油としての性能規格である。

一方、グループ1、グループ2、グループ3、グループ4、グループ5は、基油の分類である。

この二つは別物である。

API SQだからPAOではない。

GF-7だからエステルではない。

ACEA C3だからグループ4以上ではない。

JASO MA2だからPAOという意味でもない。

グループ3高度水素化鉱物油でも、添加剤設計が優れていればAPI SQやGF-7に適合できる。

逆に、PAOやエステルを使っていても、規格試験を通していなければ規格適合とは言えない。

つまり、規格は完成油性能。

基油グループは材料の成り立ち。

この二つを混同してはいけない。

規格は最低条件、基油は設計思想

オイル選びでは、まずメーカー指定粘度と指定規格を満たすことが最低条件である。

たとえば、取扱説明書で0W-20 API SP/ILSAC GF-6指定なら、まずその条件を満たすオイルを選ぶ。

最新車両でAPI SQ/ILSAC GF-7が指定されるなら、それを優先する。

これは保証、排ガス装置、燃費、LSPI、タイミングチェーン摩耗、低温始動性に関わる。

しかし、同じ規格適合油でも、中身は同じではない。

同じAPI SPでも、グループ3もある。

グループ3+もある。

PAOやエステルを使ったグループ4以上もある。

同じGF-6でも、ホームセンターの実用グループ3油もあれば、PAO・エステル配合の高性能油もある。

つまり、規格は最低条件。

基油は設計思想。

この二段階で見る必要がある。

普通の車なら規格優先

普通の軽自動車、コンパクトカー、ミニバン、ハイブリッド車、通勤車、買い物車なら、まず規格と粘度を優先すべきである。

メーカー指定が0W-20 API SP/GF-6Aなら、それを満たすこと。

メーカー指定が0W-16 GF-6BやGF-7Bなら、それを満たすこと。

メーカー指定がACEA C3なら、それを満たすこと。

メーカー指定がJASO DL-1なら、それを満たすこと。

この最低条件を外してまで、基油だけで選ぶのは危険である。

どれだけ高価なPAO・エステル系オイルでも、車両指定の規格や粘度に合わなければ、正しい選択とは言えない。

高負荷車なら規格+基油を見る

一方で、高負荷で使う車は、規格だけでは足りない場合がある。

高回転を多用する車。

油温が上がりやすい車。

スポーツ走行をする車。

ターボ車。

長距離高速巡航が多い車。

油圧低下を嫌う車。

こういう車では、同じAPI SPやAPI SQでも、基油の差が出る。

グループ3でも通常使用には十分だが、高温安定性、蒸発損失、せん断安定性、油膜保持性まで見るなら、グループ3+やグループ4以上を見る意味がある。

つまり、普通の使い方なら規格優先。

高負荷の使い方なら、規格に加えて基油を見る。

これが合理的なオイル選びである。